DX投資促進税制とは?国がDX推進を後押しする減税措置

DX投資促進税制とは?国がDX推進を後押しする減税措置

DX推進は多くの企業に求められる取り組みです。しかし、業務のデジタル化やデータ活用などへの投資が必要な場合が多く、思うように進まない企業も少なくないようです。そこで、企業のDX推進を促すため、DXへの投資で受けられる減税措置である「DX投資促進税制」が創設されました。2023年3月末までの時限措置ですが、認定要件を満たせば業種や企業規模を問わず利用できます。

今回は、国がDX推進を後押しするDX投資促進税制について、内容から事例まで幅広く紹介します。そのほかの優遇措置や補助金もあわせて紹介しますので、これからDXを進めようと検討している企業は、ぜひ参考にしてください。

DX投資促進税制とは

DX投資促進税制とは、企業のDX推進を図るため、2021年施行の「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」に盛り込まれた税制優遇制度です。

具体的には、DXに不可欠なクラウド技術を活用したデジタル関連投資について、税額控除または特別償却を行うものです。クラウドサービスを利用したデジタル関連投資であれば、ソフトウェアやハードウェアも対象となります。

DX投資促進税制の適用を受けられる対象者は、青色申告書を提出する法人で、産業競争力強化法にもとづく「事業適応計画」の認定事業者です。事業適応計画の認定要件は、このあとの「DX投資促進税制の認定要件」で説明します。

なお、DX投資促進税制は2021年8月2日から2023年3月31日までの時限措置です。

参照:令和3年度(2021年度)経済産業関係 税制改正について|経済産業省

DXについて詳しくは、「【徹底解説】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?必要性から成功事例まで」をご参照ください。

DX投資促進税制の内容

条件を満たせば、次のいずれか一方の優遇措置を選択できます。

  • 税額控除
    実際に事業の用に供している適格な投資に対して、原則3%(自社グループ外の法人とデータの連携あるいは共有を行う場合は5%)の控除が可能です。
    ただし、税額控除には控除上限があり、「カーボンニュートラル投資促進税制」と合わせて、当期法人税額の20%までとなります。
  • 特別償却
    投資額の30%までを経費計上することが可能です。

どちらの場合も、適用対象となる設備投資総額には、以下のように上限・下限があります。

上限:300億円
下限:投資額が連結会計ベースの国内売上高に対して0.1%以上(輸出を除く)
DX投資促進税制の対象となる設備

対象となるのは以下のような設備です。

  • ソフトウェア
  • 繰延資産(クラウドシステムへの移行にかかる初期費用を想定)
  • 機械装置(上記ソフトウェアまたは繰延資産と連携して使用するもの)
  • 器具備品(上記ソフトウェアまたは繰延資産と連携して使用するもの)

DX投資促進税制の認定要件

DX投資促進税制の優遇措置を受けるためには、デジタル(D)要件と企業変革(X)要件の両方を満たした「事業適応計画」を作成して主務大臣の認定を受ける必要があります。

「事業適応計画」は、DX投資促進税制を適用するために、産業競争力強化法に新たに創設された認定制度です。D要件とは、データ連携・共有やサイバーセキュリティなどの技術的な要件のことで、X要件とは、計画が全社的な戦略であるか、十分な生産性向上が見込めるかなどの企業変革に関する要件のことです。

また、事業適応計画の「事業適応」には、「成長発展事業適応」「情報技術事業適応」「エネルギー利用環境負荷低減事業適応」の3つの類型がありますが、DX投資推進税制は「情報技術事業適応」にかかる優遇措置です。

つまり、DX投資促進税制の認定を受けるには、「情報技術事業適応」の認定要件と課税の特例の要件を満たす内容の事業適応計画を作成しなくてはなりません。

情報技術事業適応の定義と認定要件

「情報技術事業適応」については、経済産業省が以下のように定義しています。

「デジタル技術の革新により世界で破壊的なイノベーションが起きていることを踏まえ、こうしたDigital Disruption(デジタル・ディスラプション)の動きに対応していくべく、デジタル技術を活用したビジネスモデルの変革(DX)に取り組むこと」

引用元:産業競争力強化法における事業適応計画について|経済産業省

「情報技術事業適応」の認定要件には、「計画期間」「生産性の向上または新需要の開拓」「財政の健全性」「前向きな取組」「全社的取組」があり、それぞれ細かく基準が設定されています。例えば、「生産性の向上または新需要の開拓」の詳細は以下のとおりです。

<例:生産性の向上>

「計画の終了年度において次のいずれか(1~4)の達成が見込まれること(企業単位)

  • 修正ROA 2%ポイント向上
  • 有形固定資産回転率 5%向上
  • 従業員1人当たり付加価値額 6%向上
  • 情報技術事業適応特例基準に定める指標

そのほかの認定要件は、下記の11ページ「事業適応計画の認定要件(詳細)」をご覧ください。

引用元:産業競争力強化法における事業適応計画について|経済産業省

DX投資促進税制の適用を受けるには、具体的には以下のD要件とX要件を満たす内容の事業適応計画を作成しなければいけません。

デジタル要件(D要件)

D要件では、次の3つの要件を満たす必要があります。

  • 他の法人などが有するデータまたは事業者がセンサーなどを利用して新たに取得するデータと、既存内部データとを合わせて連携すること
  • クラウド技術を活用すること
  • IPA(情報処理推進機構)が審査を行う「DX認定」を取得していること

引用元:3 法人課税—令和3年度税制改正 令和3年3月|財務省

DX認定制度について詳しくは「DX認定制度とは?制度の概要や申請の流れ、認定基準を解説」をご覧ください。

企業変革要件(X要件)

X要件では、次の3つの要件を満たす必要があります。

  • 商品の製造原価が8.8%以上削減されることなど
  • 生産性向上や売上高の上昇の目標を定めること
    ・計画期間内で、ROAが2014年~2018年平均を基準値として1.5%ポイント向上
    ・計画期間内で、売上高伸び率≧過去5年度の業種売上高伸び率+5%ポイント
  • 投資総額が売上高比0.1%以上であること

引用元:3 法人課税—令和3年度税制改正 令和3年3月|財務省

優遇を受けるためのステップ

DX投資促進税制は期間限定の措置であり、認定を受けるまでには数ヶ月の時間が必要です。そのため、適用を希望する企業は、すぐにでも対応を始めましょう。

  1. 税制の内容確認と自社の現状把握
  2. 「DX認定」の取得
    申請後、認定までには1ヶ月以上の時間が必要です。
  3. 事業適応計画の作成と申請
    認定までには1ヶ月以上の時間が必要です。
  4. 計画にもとづいた投資資産を取得
    税制適用期間内に事業の用に供し、税務申告を行う必要があります。
  5. 優遇措置の適用
  6. 「実施状況報告書」の提出
    年度終了後3ヶ月以内に報告書の提出が必要です。

DX投資促進税制の適用事例における事業適応計画の概要

DX投資促進税制が適用された企業の、事業適応計画の概要を紹介します。

  • 株式会社FOOD & LIFE COMPANIES
    クラウド上の需要予測AIをもとに、事業パートナーである物流センターへの発注量・配送タイミングを最適化します。さらに、物流事業者や各メーカーと連携して在庫・配送の最適化を実現する計画です。
    参考:株式会社FOOD&LIFE COMPANIESの事業適応計画のポイント|経済産業省
  • 株式会社スギ薬局
    スマートフォンアプリで顧客とのデジタル接点を拡充し、新需要の開拓を目指します。また、IPカメラなどから顧客の行動データを取得・分析して、販売促進活動やPB商品の開発を行うことが目標です。
    参考:株式会社スギ薬局の事業適応計画のポイント|経済産業省
  • 株式会社QUICK
    クラウド技術を活用して金融データや周辺情報、市況データやニュースなどを蓄積・加工・分析します。また、顧客の持つデータと連携し、投資判断に必要な情報をリアルタイムに可視化します。さらに、独自のナレッジを活用した、より付加価値の高い情報の提供が目標です。
    参考:株式会社QUICKの事業適応計画のポイント|経済産業省

DX投資促進税制以外の融資制度や優遇措置

DX投資促進税制以外にも、DX推進を後押しする支援策があります。

  • IT導入補助金
    ITツールの導入費用を補助する制度です。対象は中小企業や小規模事業者です。詳細は、次の公式サイトを参照してください。
     IT導入補助金| サービスデザイン推進協議会
    なお、ユーザックシステムの「名人シリーズ」の導入も、IT導入補助金の対象になるものもあります。ユーザックシステムではIT導入補助金の交付申請などのサポートもしておりますので、お気軽にご相談ください。
    2022年度 IT導入補助金 | ユーザックシステム
  • ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
    主に製造業の中小企業または小規模事業者が対象の補助金制度です。詳細は、次の公式サイトを参照してください。
    ものづくり補助金とは | 経済産業省 中小企業庁
  • 繰越欠損金の控除上限引き上げ
    経営改革に取り組む企業に向けた、繰越欠損金の控除上限の特例です。利用には事業適応計画の認定が必要です。詳細は、次の公式資料を参照してください。
    「繰越欠損金の控除上限」の特例ガイドライン|経済産業省
  • 研究開発税制
    民間企業の試験研究費の額で一定割合を控除の対象にできる制度です。クラウド関連のソフトウェア研究開発費が対象に追加され、DXの推進に役立てることができます。詳細は、次の公式サイトを参照してください。
    研究開発税制について|経済産業省

以上のように、中小企業に有利な優遇措置や補助金制度も多く存在します。DX推進への意欲はあるものの資金面でなかなか進まないといった企業は、積極的に活用することをおすすめします。

中小企業のDX推進については「中小企業でDXを推進するには?現状や成功させるためのポイント」もご一読ください。

DX投資促進税制の適用を受けるためにはいますぐ着手しよう

DX推進には投資が必要ですが、DX投資促進税制のような優遇措置や各種補助金など、推進を後押しするさまざまな支援策があります。

今後、企業が生き残るためには、業種や規模にかかわらずDX推進は必須の取り組みともいえるでしょう。DXの必要性は理解しているけれど予算の確保が難しいといった中小企業も、制度をうまく活用し、積極的にDX推進へ取り組んでいかなければなりません。

なお、紹介したように、DX投資促進税制は2023年3月31日までの時限措置です。「DX認定」取得や事業適応計画の作成など多くの準備が必要ですので、いますぐにでも取りかかることをおすすめします。